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環境・資源利用の経済評価

 市場メカニズムが働いた結果,経済的な効率が達成されない現象は「市場の失敗(market failure)」と呼ばれます。その原因として,「外部性(externality)」や「公共財(public goods)」等の存在が知られています。一般的な財やサービスの取引は市場を通じて行われますが,公共財や公共サービスには市場が存在しません。それ故,市場メカニズムのみでは効率的な資源配分が達成されない場合があります。

 例えば,農林水産業は食料の供給といった本来的な機能以外に様々な多面的機能(multi-functionality)を有するといわれています。洪水防止や国土の保全,水源涵養といった機能に加えて,保養・交流・教育などに「場」を提供する機能なども含まれます。こうした環境を形成する機能によって,国民は様々な便益を享受していますが,市場が存在しないため,こうした便益に対して対価は支払われません。一般的に,経済のグローバル化を背景として,わが国の一次産業は衰退傾向にあるといわれていますが,同時にこうした産業に付随する機能も失われている可能性があります。以上の例は,外部性の正の側面ですが,もちろん環境問題の様な負の外部性も存在します。

 環境経済学は,市場の失敗が発生した状況において,市場化の手法や政策・制度の設計について考える学問です。その中でも環境評価は,個々の具体的な環境の価値やその改善がどれだけの社会的便益をもたらすかを実際に測る作業です。この作業は,社会的環境マネジメントを実践する上で,たいへん重要であるにもかかわらず,信頼できる評価値を求めることは容易くありません。当分野では,こうした環境評価をできる限り正確に行うために,計量経済学的な計測手法の改善や地理情報システム(geographical information system)技術の活用などを積極的に行っています。

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環境ガバナンス

 持続可能な社会を達成するためには,多様な環境財を,適切に利用または保全し,管理する経済社会の構築が必要となります。こうした環境を管理する能力や仕組みを環境ガバナンス(environmental governance)と呼びます。環境ガバナンスには,国際機関や政府,地方自治体,企業,NGO,市民,学者といった様々な主体が関与し,そのシステム構築を目指しています。

 例えば,環境問題においては,外部性(externality)の存在故に「皆で取り組めば,皆よくなる」のに「1人だけ取り組めば損をする」という状況が発生します。また,農山漁村等では,かつてコミュニティで行われていた共同作業や相互扶助といった機能が,過疎高齢化,兼業化,混住化等の進行とともに失われつつあります。近年,こうした活動を補完するものとして,非営利組織(nonprofit organization)の活動及びそのネットワーク的な連携活動が,注目されています。
環境資源の保全への取り組みや相互扶助の様な活動に上手く機能するか否かは,その社会において,信頼関係が構築されているか,コミュニケーションが密かどうか,すなわち,非営利組織の存在の豊かさと,それら組織のネットワークの存在の豊かさはどうであるかにかかわってきます。近年,こうした非営利な組織の存在およびネットワークの存在を示す概念として「社会関係資本(social capital)」が注目されています。

 社会関係資本は,現実には様々な非営利な社会的集団の重層的ネットワークとして存在しており,こうしたネットワークの充実が,環境ガバナンスが目標とする持続可能な社会の達成を確実なものとすると考えられています。

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農村共有資源の保全と利用

 オープン・アクセスの環境下で,共有資源の利用者が自己利益だけを追求し,その保全・管理を怠れば,資源は過剰に利用され,やがて枯渇します。これがハーディン(G. Hardin)によって指摘された「共有地の悲劇(tragedy of commons)」です。しかし,すべての共有地がそのような運命を辿っているわけではありません。おもに途上国のフィールドからは,悲劇的な結末とともに多くの成功事例が報告されています。ハーディンの予測に反し,慣習的なルールや共同体の規範がオープン・アクセスを制限しています。その結果,利用者の相互利益が尊重され,共有資源はきわめて良好な状態に保全・管理されています。明らかにそこには,ハーディンが「悲劇」を回避する方法として提唱した私的所有権の確立,中央集権的な管理とはまったく異なる,別のメカニズムが作用しています。

 では,どのような共同体で,資源が適正に保全・管理されているのでしょうか。いいかえれば,資源管理労働(出役)の「ただ乗り」を抑制するメカニズムとは,一体どのようなものなのでしょうか。また,資源が適正に保全・管理されているとは,具体的にどのような状態を指しているのでしょうか。

 われわれの研究によれば,進化ゲーム理論(evolutionary game theory)が集団行動の原理を理解する上できわめて有用であり,そこから導出された仮説が共有地問題の争点と深く関係していることを示唆しています。

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